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2025.05.15
国際アワード受賞。「MyJCBアプリ」が徹底したお客様志向で叶える、安心と使いやすさの両立
株式会社ジェーシービー(以下:JCB)が提供する会員専用Webサービス「MyJCBアプリ」。クレジットカード利用者に、より安全で便利な体験を届けることを目指し、2023年に全面リニューアルされました。フォーデジットは、デザインパートナーとして2021年のプロジェクト開始から参画し、サービスデザイン(サービス構想からユーザー体験デザイン、プロダクト構築、運用の一連のデザイン領域)を担当。リニューアル後の現在も継続的な改善活動に伴走しています。
ユーザー調査を重ね、納得いくまでデザインを突き詰めたこの取り組みは、「iF DESIGN AWARD 2025」および「A’ Design Award & Competition」受賞という国際的な評価にもつながりました。プロジェクトの裏側について、JCBとフォーデジットそれぞれのリーダーが語ります。
木次 謙 - Ken KOTSUGI
カード事業統括部門
カード事業統括部長
※2025年4月より営業本部 営業統括部長
末成 武大 - Takehiro SUENARI
取締役COO
届けたい価値を、届けるために。「理想を描く」プロジェクトのはじまり
末成:
MyJCBアプリについて、まずはリニューアルの背景をお聞きしたいです。
木次:
アプリは2016年にリリースして以来、多くの会員の皆さまにご利用いただいてきました。MyJCBのWebやアプリの利用状況を調べてみると、会員の約半数が何らかの形でアクセスされていますが、主な使い方としてはトップページでの利用金額の確認が中心となっていました。私たちとしては、キャンペーン情報の確認やさまざまな手続きの完結など、もっと会員の皆さまのお役に立てる可能性を感じていたんです。そこでアプリをより使いやすく、より便利にしていこうということで、リニューアルに踏み切りました。
末成:
アプリを通じてお客様とのつながりをより深める余地がある、ということですね。
木次:
そうです。我々の目的は、カード利用をより快適にすること。そのためには「どう使うと便利か、お得か」といった情報をしっかり届ける必要があります。お客様との接点としてアプリは非常に重要な位置づけで、だからこそ「抜本的に変える必要がある」と考えました。届けたい価値をきちんと伝えられるアプリにしたい、というのがリニューアルの最大の動機です。
末成:
その中でパートナーとしてフォーデジットを選んでいただいたのは、どういった理由があったんでしょうか?
木次:
率直に言うと、他のご提案いただいた会社さんとは少し雰囲気が違っていて。すごくかっちりした雰囲気の会社が多い中、フォーデジットさんは柔らかいというか。お、ちょっと何か違うな?と印象的で(笑)。
末成:
それは「良かった」と受け止めてよろしいでしょうか(笑)。
木次:
そうですね。我々自身が「変わりたい」と強く思っていたので、そういう意味でも新しい風を期待できる印象がありました。フォーデジットさんには金融領域の経験もあるし、カード会社が抱える課題に対しても理解がある。さらに、これまで携わってきたアプリの事例も見せていただいて期待も膨らみました。
末成:
そうした我々の経験値と雰囲気のバランスが、ちょうどよかったということですかね。
木次:
まさにそうです。あと、他社さんは開発まで内製しているケースが多く、現実的な話として「それは難しい」「時間やコストがかかる」といった前提が見えていたんです。一方でフォーデジットさんとは「現実はちょっと置いといて、こういうことができたらいいよね」といったお話ができて、理想から描いていけると感じました。実際にはNTTデータさんとも連携して開発していくわけですが、実現したいことに向けて前向きな想像ができました。
ユーザー調査を重ねることで導き出した、納得できるかたち
末成:
「理想を描こう」というのを目指してスタートし、最初は調査を通じてファクトを集め、仮説を立て、そこから初期デザインに着手していくという流れでした。
木次:
その中で特に悩ましかったのは、「こんな機能があったらいいね」と理想を語る一方で、既存アプリのどこを残し、何を追加するかということ。全部盛り込むと年単位の開発になるので、初期リリースでは大幅に絞り込みました。判断にはかなり悩みましたね。
末成:
そうでしたね。バックログには果てしないほどの機能リストがあり、重要なものでも諦めざるを得ないことがありました。ただ、既存の使い勝手やこれまで提供してきた価値を守る必要があり、そのバランスを取るのは難しかったと思います。
木次:
はい。だからこそ最初のバージョンでこだわったのは「安全・安心」という価値をしっかり可視化すること。そして、フォーデジットさんの知見を活かして、お客様にとって使いやすいデザインを追求することでした。
末成:
振り返ると、アイデアは550個もありました。お客様のニーズを探るための調査もかなり多く行いましたね。
木次:
そうですね。
末成:
アンケート、インタビュー、ワークショップの結果を踏まえたアイデアに対する受容性調査、トーン&マナーを決定するためのデザイン検証、画面設計の検証と、リリースまでに合計5〜6回はやったんじゃないでしょうか。ここまでたくさん調査をやらせていただくことは、私たちにとってもなかなかない経験です。
木次:
デザイン思考はそういうものだと思ったんです。プロトタイプを作り、お客様の反応を見て改善していく。その繰り返しが大切だと理解していたので、自然と何度もやっていました。
末成:
おっしゃる通りです。
木次:
途中でメンバーから「こんなにやってたらリリースが間に合いません!」って言われましたけど(笑)。
末成:
たしかに(笑)、私たちの方も「本当に終わるのか」と不安になるほどでした。通常は調査を2〜3回で区切り、あとはリリース後のフィードバックで改善していくのが一般的です。でも、最善のプロセスを踏めたと思います。
木次:
お客様志向で始めても、時間の制約で妥協してしまうことってよくあると思うんです。ですがそうなると最初に掲げた姿勢とズレてしまう。それを避けたかったんです。「本当にこれでいいのか」と不安になると、お客様の声を確かめたくなって。少しでも足りないと言われると「じゃあやり直そうか」となり(笑)。
末成:
木次さんの姿勢はプロダクトオーナーとして理想的ですよね。自分が納得できるかという観点でこだわるのは、本当の意味でのオーナーシップだと思うんです。まるでスタートアップで自分のお金をかけて勝負しているような、そんな覚悟を感じました。それでいて、私たちにも自由に喋らせてくれますし。だからこそ「ついて行こう」と思えるんです。
木次:
私はたぶん、ものづくりが好きなんだと思うんです。良いものを作りたかったので、デザインやデザイン思考についても時間をかけて学びました。だからこそ、理想の形を追い求め続けた部分はあるかもしれません。
現場に根づいたフラットな関係性が、理想を現実に変えていく
末成:
JCBさんとNTTデータさんががっつり組んだアジャイル体制も、かなり新しい試みだったんですよね。
木次:
今回変えたかったことの一つが、開発のスピード感でした。内部の話ですが、とても開発が重いシステムで、ちょっとした変更にも大がかりな対応が必要だったんです。だからこそ、アジャイル型の開発にシフトして、短期間で機能をリリースしていける体制にしたいと考えていました。今回のリニューアルでは、そこも大きな目的でした。
末成:
理想を描くだけでなく、それをきちんと現実に落とし込んでいくには、やはり開発体制の柔軟さは必要ですよね。我々が提示した理想像に真摯に向き合ってくれる体制があってこそ、ここまでたどり着けた。その分、JCBさん側のご負担も相当大きかったのかなと。
木次:
そうですね。実際リリースまでには2年以上かかっていますし、開発メンバーは相当な苦労をしたと思います。
末成:
ただ、フォーデジットと関わりがあった開発メンバーの皆さんは、とても楽しそうな雰囲気で取り組んでいた印象があります。
木次:
はい。開発メンバーを含めたプロジェクトチーム全員で活発に意見が交わされていました。それがアジャイルやスクラムとしてうまくいっているかどうかは、他社さんの開発体制を見たことがないので客観的な評価は難しいですが、少なくともメンバーたちも満足して取り組めていたのではないかと思います。
末成:
正直、最初はJCBさん=堅い会社という印象がありました。でもご一緒してみると、木次さん含め皆さんのラフでフラットな雰囲気に驚いて。あの空気感があったからこそ、アジャイル開発もうまく機能したんだと思います。形だけのアジャイルではなく、自由に意見を出し合える土壌が最初からあった。企業カルチャーとしてのフラットさが、アジャイルやデザインとの相性の良さにつながっていたと感じます。
木次:
そうですね。理由は二つあると思っています。一つは、JCBがもともと比較的フラットな文化を持っていること。金融系、銀行系とはいえ、当社は銀行との関係性が少し異なり、管理職も早くからプロパー社員(自社育成)が担ってきました。小さな会社だったころから、皆で「カードを広めよう」と上下の距離が近く、自然体のコミュニケーションが根付いていたんです。
末成:
たしかに、それがカルチャーとして定着している印象はありますね。
木次:
もう一つは、私自身があえて現場に直接入ったこと。最初に担当者から「リニューアルしたい」と相談されたとき、私は何度か反対したんですよ。膨大なリソースと時間を要する案件になるとわかっていたので。けれど、メンバー全員が「やりたい」と言うので、それならば腹を括って本気でやろうと。
末成:
だからこそ今回の体制が実現したんですね。
木次:
はい。日常の開発を担当していた既存チームとは切り離し、プロジェクト専任の新チームを立ち上げました。そして、自分が直接マネジメントする形にしたんです。それくらいの覚悟でやらなければ、この規模のプロジェクトは成功しないと周囲からも言われていましたし。実際大変ではありましたが、すごく面白かったですね。
末成:
開発チームとのやり取りも、間に誰も挟まずに直接コミュニケーションを取られていて。それってすごく大変だったと思いますし、すごいことですよね。
木次:
でも、個人的にはすごく楽しかったです。他の部署では、私のようなポジションの人間がここまで前線に出ることはあまりないと思いますが、それをあえてやりました。好きだったんでしょうね(笑)。
末成:
その楽しんでいる感じ、伝わってきました(笑)。フォーデジット側もMyJCBアプリを一緒に作ってきて、関わる一人ひとりが強い当事者意識を持って動いています。一緒に育てていきたいという想いが強いんですよ。だから、ちょっとしたアイデアが出たらすぐに形にしてみよう、試してみようとするんです。同じ社内のメンバーのような感覚で動いているのではないかと。
木次:
それは本当にありがたいですね。
末成:
ベンダーとクライアントという立場を超えて、能動的に関われるのは、すごく理想的な関係性ですよね。自然と「自分ごと」として考え、行動できる文化がプロジェクトチーム内で醸成されているんだと思います。多くの場合、専門外のことは任せきりになりがちですが、リーダーの木次さん自らが学ぶ姿勢を見せることで、チームにも良い影響が出ている。理論と現実が乖離しがちな中、「正しいことを正しくやる」という姿勢を貫いていたからこそ、正しいアジャイルが実現できたのだと思います。
国際アワード受賞!「便利さ」のその先へ
末成:
現在も、新機能の追加や継続的なリサーチを進めている最中ですが、今年2月には「iF DESIGN AWARD 2025」のUser Experience(UX)部門・Communication UXで受賞することができました!
木次:
嬉しいですね。フォーデジットさんの力あってこそです。
末成:
いえいえ、本当にみんなの努力の賜物です。そして4月、新たに「A’ Design Award & Competition」の Mobile Technologies, Applications and Software Design部門でもゴールドを受賞しました。これはもう、一大事ですよ!
木次:
私達がこだわって作ったものが「お客様にとって価値あるもの」だと認めていただいたということですよね。プロジェクトチーム・メンバーも、頑張ってきてよかった、と言っています。
末成:
アワードという形で外部から評価されたのは大きな成果ですし、ユーザーテストやストアレビューの分析を重ねて、一定の評価を得られる状態になったのは意味のある成果だと思います。ちなみに、リニューアル後の社内の反応はいかがでしたか?
木次:
「見やすくなった」という声が圧倒的に多いですね。視認性や操作性には特に突き詰めた部分ですから、そこを評価してもらえたのは嬉しいです。本件は経営層含め「やるべき案件」として認識され、社内でも後押しされています。正直かなりの投資をしていますが(笑)、リリースがゴールではなく、2ヶ月ごとのアップデートを前提とした継続体制も理解と期待をもって支援してもらえています。
末成:
それだけ社内からの注目や要求も多いのではないでしょうか?
木次:
そうですね。「こういう機能を入れてほしい」といった声は本当にたくさん寄せられています。
末成:
社内から声が出るのも期待値が上がっている証拠ですね。2ヶ月ごとに新機能をリリースするというのは、かなり速いサイクルですよね。
木次:
やりたいことがどんどん出てきて。もともと「アプリを使いやすく便利にする」ということだけでなく、「カード利用をより快適にする」ことが私たちの目的ですから、少しでも早くそこに近づきたいと思ってやってます。
末成:
まさに、カード利用体験の一部としてアプリがある、ということですね。
木次:
そこを追求し続けたいと思っています。今もそれに繋がる新機能をいろいろ開発しています。
パーソナライズが育む、お客様との新しいつながり
末成:
今後の展開として「安全・安心」は引き続き大事なキーワードになりそうですね。
木次:
そうですね。クレジットカードの不正利用が社会問題化する中で、「カードを使うのが怖い」という声は以前からいただいています。その不安をどう取り除いていくか。特にアプリは技術進化が速く、最近では認証方法も進化していて、ワンタイムパスワード以上の安全性を、よりスムーズに提供できるようになっています。ただし、認証強化がお客様の利便性を損ねないよう、二つの価値観の両立が重要です。
末成:
アプリというプラットフォーム自体が、新しい技術を取り入れやすいというメリットもありますよね。
木次:
そうなんです。だからこそカードを「安心して気持ちよく使えるもの」に進化させていくのは、今後も最優先のテーマです。最終的にお客様がサービスを比較する際、安全性は必ず土台となる部分。派手さはないかもしれませんが、一番にこだわっていきたいと思っています。
末成:
「安全・安心」と並んで、パーソナライズも今後さらに力を入れていくポイントですよね。
木次:
最近では、ユーザーごとに最適な告知を出し分けられる仕様を作ったのですが、それがかなり好評で。ある部署ではそれを使った告知によって、これまでの何倍もの反応が得られました。
末成:
必要な人に必要な情報が届いている、という実感がありますよね。
木次:
はい。こういった取り組みは、今後も積極的に増やしていきたいと考えています。他にも「着せ替え機能」を調査したところ、約20%の方が利用してくれていました。まだ大々的な告知やキャンペーンをしていない段階なので、かなり高い利用率だと思っています。
末成:
それはすごいですね!
木次:
「アプリに愛着が湧くようになった」という声もアンケートで届いています。そこからカードの利用にもつながる。そういう好循環が生まれていると感じます。
「カードとアプリが一体となる」これからの日常を見据えて
末成:
このプロジェクトを通じて、フォーデジットに対して率直にどう感じられましたか?
木次:
こうした進め方は初めてで手探りでしたが、フォーデジットさんの豊富な経験に支えられ、安心して取り組めました。我々の要望も多く大変だったと思いますが、的確に対応いただきました。調査はできても、具体的な提案までは自分たちだけでは難しい。そうした中で、フォーデジットさんの提案力やお客様理解の深さには大きな価値を感じています。今後もぜひご一緒したいですね。
末成:
ありがとうございます!こちらこそ、引き続きご一緒できることを大変楽しみにしています。MyJCBアプリの今後の展望についても、ぜひお聞かせください。
木次:
まだアプリを使っていない会員の方も多く、まずはそこを改善したいと考えています。今年から、JCB会員全員にMyJCBのログインIDを発行する方針に切り替えました。つまり、誰でも簡単にアプリにログインできる環境が整ったということです。カードとアプリが一体となって価値を提供する、その状態を「当たり前」にします。
末成:
まずは、カードとともにアプリを使ってもらうことが大前提になるということですね。
木次:
そうです。そのうえで今後さらに力を入れたいのが、「カードを使う」行動そのものの進化です。物理カードなしでアプリだけで買い物できるようになってきていますし、国内海外で使える新たな決済機能の追加も考えています。大きな買い物をしたい時の増枠申請はアプリからワンタップでできるようになりましたが、もっと便利にします。
もう一つは、お客様それぞれのカード利用を支えるサポート機能です。たとえば、元よりニーズが高い利用明細では「どんなカテゴリーでの利用が多かったか」をお客様毎の価値観にあわせて可視化するなど、多様なお客様ニーズに応えられるよう進化させたいと考えています。また、お薦めの機能やキャンペーンをタイムリーに提供したり、気に入ったら簡単に登録できたり。
こうした機能を通じて、「一番使いやすいカードはJCBだね」といってくださる方をもっともっと増やすこと、それが私たちの最終目標です。
取材・文:小山美咲
撮影:二上大志郎